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「エンジョイ、寄り道、回り道!」をモットーに、素人がトライした、ゆる〜い作業記録です。
2019年4月25日木曜日
双対的なLyapunov方程式の導出
可制御な対 $\lbrace A,B \rbrace$ に関するLyapunov方程式を導出してみました。 --- 有本卓『信号処理とシステム制御』[1](以下、「引用文献」とする)の「第7章 フィードバック制御」- 「$\text{\sect}$ 1 安定判別法と安定化」 - 「(a) Lyapunov方程式」には、対 $\lbrace A,C \rbrace$ の可観測性を問題にしたときのLyapunov方程式(Lyapunov equation) > $$ \tag{7.7} A'X + XA = -C'QC$$ の導出が行われています。一方、 > 式(7.7)に双対的に、Lyapunov方程式 > $$ \tag{7.16} AY + YA' = -BVB'$$ > も考えられる。この場合、対$\lbrace A,B \rbrace$が可制御ならば、$A$が安定*になるための必要十分条件は解$Y$が存在して正定値になることとなる. と、書かれているのですが、こちらについては、導出は省略されています。( * :ここで「安定」とは漸近安定のことで、引用文献では、単に「安定」と記述することが断られています。) そこで、式(7.7)の導出に倣って、式(7.16)の導出をしてみました。ここでは、式(7.16)を式(7.7)の「Lyapunov方程式」に対して「**双対的な**Lyapunov方程式」と呼ぶことにします。それ以外の表記は、引用文献に倣います。
--- ## 十分条件「$A$が安定 $\Rightarrow$ 解$Y$が存在して正定値になる」の導出 ### 線形システム・モデルと入力ベクトルの解を求める 非斉次微分方程式 $$ \tag{A.1} \boldsymbol{\dot{x}} = A\boldsymbol{x} + B\boldsymbol{v}$$ で表される線形システム・モデルを考える。ここで、状態ベクトル、入力ベクトル、係数行列の次元は、 $$ \tag{A.2} \begin{cases} \boldsymbol{x} \in \R^{n}, \boldsymbol{v} \in \R^{r} \\\\ A \in \R^{n \times n}, B \in \R^{n \times r} \end{cases}$$ とする。 初期条件 $$ \tag{A.3} \boldsymbol{x}(0) = \boldsymbol{x}_0 $$ が与えられたとき、式(A.1)の解は、一意的に、 $$ \tag{A.4} \boldsymbol{x}(t) = e^{At}\boldsymbol{x}_0 + \int^t_0 e^{A(t-\tau)}B\boldsymbol{v}(\tau)d\tau $$ と表される。(この解の導出については、引用文献の「第3章 線形システムのモデル化」 - 「 $\text{\sect}$ 4 連続時間線形ダイナミカル・システム」 - 「(a) 重み行列とインパルス応答行列」のpp.94-95に記載されている。式(A.4)は式(3.148)、(5.5)に相当する。) 対$\{A,B\}$ が可制御ならば、可制御性の定義から、初期状態 $\boldsymbol{x}(0) = \boldsymbol{x}_0$ が $\R^n$ のどんな点にあっても、入力 $\boldsymbol{v}(t)$ によって、有限の時間 $t=T>0$ で $\boldsymbol{x}(T)=\boldsymbol{0}$ とすることができる。( 引用文献p.136「定義5.1 可制御性」) $t=T$ で $\boldsymbol{x}(T)=\boldsymbol{0}$とすると、式(A.4)は、 $$ \tag{A.5} \boldsymbol{x}(T) = \boldsymbol{0} = e^{AT}\boldsymbol{x}_0 + \int^T_0 e^{A(T-\tau)}B\boldsymbol{v}(\tau)d\tau $$ 左から $e^{-AT}$ をかけて、$\boldsymbol{x}_0$ を移行すると、 $$ \tag{A.6} -\boldsymbol{x}_0 = \int^T_0 e^{-A\tau}B\boldsymbol{v}(\tau)d\tau $$ となる。 また、対$\{A,B\}$ が可制御ならば、行列 $$ \tag{A.7} \varPhi(t) = \int^t_0e^{-A\tau}BB'e^{-A'\tau}d\tau $$ は、ある$t=t_0>0$で対称でかつ正定値となる。(引用文献pp.138-139「定理5.1 可制御性の必要十分条件」) $\boldsymbol{x}(T)=\boldsymbol{0}$ を満たすある $t=T>t_0$で、$\varPhi(T)$ は対称正定値行列なので、逆行列 $\varPhi^{-1}(T)$を持つ。したがって、 $$ \tag{A.8} \boldsymbol{v}(\tau) = -B'e^{-A\tau}\varPhi^{-1}(T)\boldsymbol{x}_0 $$ とすると、$\boldsymbol{v}(\tau)$ は、式(A.6)を満たすので、すなわち式(A.5)の解となる。 ### 入力の全エネルギーを考える ここで、初期状態 $\boldsymbol{x}(0) = \boldsymbol{x}_0$ から $\boldsymbol{x}(T)=\boldsymbol{0}$ に至るまでに入力$\boldsymbol{v}(\tau)$で消費された全エネルギーに相当する量 $$ \tag{A.9} J_c(\boldsymbol{x}_0) = \int^\infin_0\boldsymbol{v}'(\tau)Q_c\boldsymbol{v}(\tau)d\tau $$ を考えてみる。ここで、$Q_c$ は $\R^{r \times r}$ の対称正定値行列とする。 $\boldsymbol{v}(t)$ は、可制御性の定義から、時間区間 $I = [0,T], T > 0$ で区分的連続な関数を成分としているので、$\boldsymbol{v}(t) = \bold{0}, (t>T)$と拡張すれば、式(A.9)は計算できる。 式(A.8)を式(A.9)に代入してみると、 $$ \tag{A.10} \begin{aligned} J_c(\boldsymbol{x}_0) &= \int^\infin_0\boldsymbol{v}'(\tau)Q_c\boldsymbol{v}(\tau)d\tau \\\\ &= \int^\infin_0\boldsymbol{x}_0'\varPhi'^{-1}(T)e^{-A'\tau} BQ_c B'e^{-A\tau}\varPhi^{-1}(T)\boldsymbol{x}_0d\tau \\\\ &= \boldsymbol{x}_0'\varPhi'^{-1}(T)Y\varPhi^{-1}(T)\boldsymbol{x}_0 \end{aligned} $$ ここで、 $$ \tag{A.11} Y(\tau) = \int^\infin_0e^{-A'\tau} BQ_cB'e^{-A\tau}d\tau $$ とおいた。時間軸移動 $\tau = t - t_0$ を考えると、 $$ \tag{A.12} Y(t - t_0) = \int^\infin_{t_0} e^{-A'(t - t_0)} BQ_cB'e^{-A(t - t_0)}dt $$ ここで、$Y(t - t_0)$ を $t_0$ で微分することを考える。まず、$Y(t - t_0)$ は、$t_0$ に関して、時間軸が移動するだけだから、不変である。したがって、 $$ \tag{A.13} \frac{dY(t,t_0)}{dt_0} = O $$ 一般的に、関数 $G(t,t_0) = \int^\infin_{t_0}f(t, t_0)dt$ の微分 $\frac{dG(t,t_0)}{dt_0}$ は $$ \tag{A.14} \frac{dG(t,t_0)}{dt_0} = \int^\infin_{t_0}\frac{df(t,t_0)}{dt_0}dt - f(t_0, t_0) $$ となる。 これを $Y(t - t_0)$ に適用すると、 $$ \tag{A.15} \begin{aligned} \frac{dY(t,t_0)}{dt_0} = &\int^\infin_{t_0} \bigg( -A'e^{-A'(t - t_0)} BQ_cB'e^{-A(t - t_0)} -e^{-A'(t - t_0)} BQ_cB'e^{-A(t - t_0)}A \bigg)dt \\\\ &-e^{-A'(t_0 - t_0)} BQ_cB'e^{-A(t_0 - t_0)} \\\\ = &-A'\int^\infin_{t_0} e^{-A'(t - t_0)} BQ_cB'e^{-A(t - t_0)}dt\\\\ &-\int^\infin_{t_0} e^{-A'(t - t_0)} BQ_cB'e^{-A(t - t_0)}dtA -BQ_cB' \\\\ = &-A'Y -YA -BQ_cB' = O \end{aligned} $$ ゆえに、 $$ \tag{A.16} A'Y + YA = -BQ_cB' $$ ここで$V = Q_c$ とおけば、双対的なLyapunov方程式(7.16)が導かれた。 ### 補足:関数 $G(t,t_0) = \int^\infin_{t_0}f(t, t_0)dt$ の$t_0$微分(A.14)の導出 $$ \begin{aligned} \frac{dG(t, t_0)}{dt_0} &= \lim\limits_{h \rightarrow0} \frac{G(t, t_0+h)-G(t,t_0)}{h} \\\\ &= \lim\limits_{h \rightarrow0} \frac{\int^\infin_{t_0+h}f(t, t_0+h)dt-\int^\infin_{t_0}f(t, t_0)dt}{h} \\\\ &= \lim\limits_{h \rightarrow0} \frac{\int^\infin_{t_0}f(t, t_0+h)dt-\int^\infin_{t_0}f(t, t_0)dt-\int^{t_0+h}_{t_0}f(t, t_0+h)dt}{h} \\\\ &= \int ^\infin _{t_0} \lim \limits _{h \rightarrow0} \frac{f(t, t_0+h) - f(t, t_0)} {h} dt - \lim \limits _{h \rightarrow0} \frac{\int ^{t_0+h} _{t_0} f(t, t_0+h) dt} {h} \\\\ &= \int^\infin _{t_0}\frac{df(t,t_0)}{dt_0}dt - f(t_0, t_0) \end{aligned} $$ ## 参考 - [1] : [有本卓『岩波講座 情報科学〈20〉信号処理とシステム制御』(岩波書店、1982年)](https://www.amazon.co.jp/岩波講座-情報科学〈20〉信号処理とシステム制御-1982年-有本-卓/dp/B000J7N0U6) --- ## 更新履歴 2019-04-25 新規作成
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